熊本県菊池市
廣現寺(こうげんじ)より有縁の方々へ
「ゼンマイ式の振り子時計」
廣現寺の本堂では、メトロノームのようなカチ・カチ・カチと振り子時計のテンポのいい音が鳴っており、30分毎にボーン・ボーンという余韻を持った音を聞くことができます。
長年本堂の柱にあるこの時計は、リズム時計工業のもので、昭和38年頃くらいのものだと聞いています。ということは、私よりもずっと先輩なのですが今も壊れることなく現役です。
文字盤をよくみると「30DAY」の文字が入っていて、調べると「30日巻(1ヵ月巻)」と呼ばれる、一度ゼンマイをいっぱいまで巻けばその後約30日(1ヵ月)稼働するタイプという意味だそうです。
毎朝、6時より本堂でおつとめをした後に、この時計のゼンマイを軽く巻くのが日課になっているのですが、最近では娘がこの時計に興味を持ちだし、たまに鍵を使って器用に巻いています。そんな娘が「これ何?」と指さしたのが、時計の傷でした。この傷は、平成28年4月16日に起きた熊本地震によるもので、時計が柱から落ちて破損したものです。くしくも娘も同じ年に生まれており、地震のことを話すきっかけになりました。
熊本地震から6年の歳月が過ぎたのだと思うと早くにも感じますが、爪痕はまだまだ深く残っています。建物などの復旧工事はずいぶんと進みましたが、精神的な傷を抱えていらっしゃる方は今もたくさんいらっしゃいます。そんな時にいつも思い出す言葉があります。
「ボランテイアの人はね、『忘れない』と言うのよ。私たちは違うの。忘れられないの」
(著)藤丸智雄(ボランティア僧侶より)
平成23年3月11日に起きた東日本大震災で被災された方々の仮設住宅に訪問活動をさている際に、被災者の方がおっしゃった言葉とありました。その地震の約5年後にこの言葉を私自身が思い知らされることになりました。
よくよく考えれば地震のことだけではありません。私たちは老病死を生きる中で、そんな「忘れられない」経験をいくつも抱えながら生きているのですよね。
そんな経験からくる想いを、本堂でたくさんの方々が吐露していかれます。それを聴かせていただくことがどれほど有難いことか。時に一緒になって涙し、沈黙の時間を過ごすこともある。涙をながしながら笑い合うこともある。仏様がいらっしゃる本堂という空間。本当に不思議な場所です。
時は流れても、想いがいっぱいこぼれ落ちるこの空間を娘たちにも大事にしてもらえたらなと、ゼンマイを巻く娘を見ながら思ったことでした。
合掌
てくてく坊主 秋吉顕誓